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| :2000年優秀映画新聞掲載より抜粋 |
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| 十一月始め第十五回カルカッタ映画祭に参加した。今年はどうしても日本の女性監督の作品を上映したいということで高山由紀子監督の「風のかたみ」(優秀映画鑑賞会推薦)が映画祭のフォーラム部門に出品。高山監督も参加することになった。バンコックに夜遅く到着。あいも変わらぬ暑さ、そして一泊。翌朝ベンガル湾をひとまたぎで昼過ぎに到着。 |
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| 雑踏の飛行場のかたすみにカール・ダック氏がわれわれをあたたかく出迎えてくれた。彼は映画祭の運営委員でもあり有名な映画評論家でもある。かつてこのカルカッタ出身の映画監督サタジット・ライの「大地の詩」を、川喜多かしこ氏がカンヌ英が差に紹介し受賞をもたらした経緯と、彼女の映画に対するヒューマンなスタイルと情熱を私に絶賛し、彼女のマナーは全ての映画人が忘れてはならないと穏やかに私に話したことがあった。 |
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| 今でも「大地の詩」は生きとし生ける物の全てとインドの風土を併せて見事に描いた秀作であり、私はそのような無名であったインド映画を世界に紹介した川喜多かしこ氏の仕事はすばらしいと思う。 |
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| 行きすがら牛や犬、ロバ、自動車、そして人の群れが混然となって街中を包む風景を見て私は、日本にも欧米にもない全てが一体となって生きる様子に安堵感さえ覚える不思議な魅力を感じた。 |
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| 会場であるオリエント劇場はチョンロギー大通りの一本はずれた人、人、にあふれた通りの中にあった。高山監督がスクリーン前に出て「この映画は八百年くらい前の貴族の若い男女の恋物語で、ストーリーは単純でどうぞ日本の昔の伝統と、美しい日本の色彩を十分楽しんで下さい」と伝えると、立ち見客まで出た大きな会場はわれんばかりの拍手であった。 |
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| 映画は確かに平安時代の若者と、お姫様の恋物語で分かりやすく、当時の日本の風俗を鮮やかに描きスクリーンに映る紅色が、いっそう美しく描かれ篠笛のかもしだす東儀秀樹作曲のハイセンスなメロディーに私は圧倒された。見終わってインドの若い男性が「美しく劇画調で非常にエレガントだ」と語り、監督にサインをもらっている姿が印象的であった。 |
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| 映画が終わり、次のノルウェイの出品作との合間に道ばたのお茶屋であつくて濃いミルクティーを飲む。夜になっても、ものすごり人の波が劇場を取りまいていた。 |
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| フォーラムでは八ヵ国の参加があり、中でもグルジアのカハバル・キカビッツ監督の「湖」が最も心に残る作品だった。グルジアの地方都市を部隊に、父を何者かに殺された少年が転校先でいじめられながらも、やがて大きく成長していく姿を描き、少年達の思春期のけだるさを卓越したカメラが巧に映し出していた。 |
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| 映画祭の名誉委員にジロ・ポンテコルボ監督がイタリアから招かれていた。私は若い頃「ゼロ地帯」や「アルジェの戦い」を観て人間が戦う尊厳と、女優スーザン・ストラスバーグ演じる強制収容所での過酷な運命を生きる姿を忘れることが出来ない、と監督に伝えると彼は大きな拍手で私を包むように握手してくれた。 |
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| 「風のかたみ」の上映が済みわれわれのスケジュールは終わる。飛行場へ向かう車の窓から偉大なるガンジス川が見える。そこで、ヒンズーのお祈りと沐浴をしている人々が、落ちかける大きな太陽に映し出される。人、牛、犬、そして行き交う自動車を後にハウラ駅のガンジスにかかる大きな鉄橋を、なお大きくなる夕日を背に車は渡っていく。その光景は太陽を歌ったベンガルの詩人タゴールの真に生きる者への賛歌である。インド全土に七万軒の映画館、圧倒的な製作本数と世界唯一アメリカ映画が入り込めなかった国インド。そしてベンガル地方のこの映画祭は何か映画と共に、生きる者の全ての奥が見えるようで私はミルクティーの心地よい香りとともに大地に根ざしたカルカッタ映画祭に参加できた喜びをかみしめた。 |
| (パイオニア映画シネマデスク代表) |